これまで、日本で「ゲーム制作を志す」人は、ソフト制作も行っているハードメーカーやパブリッシャー(いわゆるゲームメーカー)、あるいはそれらの会社から制作を請け負うデベロッパー(開発会社)に社員として入社したり、プロジェクト単位で業務委託や派遣社員や契約社員になったりするのが一般的でした。家庭用ゲーム機でゲームを作りたいのであれば、今でも最も有効なルート(方法)であることに異論はないでしょう。
このような図式は、携帯電話でソーシャルゲームが隆盛を極めた時期も変わらず、SNSを運営する会社がプラットフォーマー、そこにゲームを提供するのがデベロッパーという形でした。家庭用ゲームより開発が容易で初期投資が少なくて済むソーシャルゲームは多くの新規参入を呼び、いくつもの大ヒットタイトルが登場。成功したデベロッパーは、古くからあるパブリッシャーに近い立場となって企業規模も拡大し、一般認知度も上がっています。
しかし、携帯電話のソーシャルゲームがスマホのアプリに変わり、ネットワークインフラが発展した今、ゲーム制作を実現する舞台(場所)は大きく変わっています。過去最高の入場者を記録し、大賑わいだった東京ゲームショウ2018(以下、TGS2018)の会場でも、そのことが目に見える形で現れていました。
世界の家庭用ゲーム機をリードする3社のうち、2社は日本の会社ですし、日本には世界のゲーム愛好者によく知られているパブリッシャーが数多く存在します。一方、日本で知られている海外のパブリッシャーとしては、アメリカや欧州の巨大メーカー、世界的なヒットを飛ばしたスタジオ(開発会社)をいくつか挙げることができるでしょう。また、韓国や中国の有名メーカーの名前を思い浮かべる人も多いかもしれません。
いわゆる「洋ゲー」と呼ばれる海外製のタイトルは、かつてはあまり品質の良くない大味なものとして認識されていました。歴史を重ね、緻密な世界と操作性、ゲームバランスを兼ね備えた日本(メーカー)のゲームが世界中の売上ランキングを席巻していたのです。しかし、ハードの性能の上昇に伴って「リアル志向」の洋ゲーのクオリティは高まり、今日では世界で売れているゲームの大半はアメリカや欧州、韓国、中国の会社が制作したものとなっています。
日本のゲーム市場は今なお巨大ですから、各国で売れたゲームは日本にも入ってきます。販売元である海外の会社が日本法人を持っている場合、その会社のタイトル(アプリ)は、日本国内のデベロッパーによってローカライズ(日本語化)されてリリースされます(日本国内のパブリッシャーが権利を購入、または提携した上でローカライズや販売を行う場合もあります)。一般のゲームユーザーにとって、海外のゲームといえば、このローカライズされたものということになるでしょう。
しかし、これらのゲームはあくまで「海外で作られた海外のゲーム(の日本語版)」に過ぎません。例えばTGS2018では、「PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)」が巨大なブースを構え、さまざまなイベントを展開していました。国内サーバーの設置、プロリーグの設立、テレビCMなどで話題となっているタイトルで、ブースも盛況でしたが、日本で生まれたものではなく、韓国発のゲームです。
TGS2018で注目すべきだったブースは、大手パブリッシャーやハードメーカーだけではありません(もちろん、それらのブースをチェックしておくことも大切です)。
ホール3と4に展開していた「ビジネスソリューションコーナー」、ホール1にあった「ニュースターズコーナー」、ホール7の「ドイツパビリオン」。これらの場所に出展していたブースの大半は、世界各国のデベロッパーが構えたものです。大きな予算をかけて大々的にプロモーションを展開し、世界を相手に勝負をかけるパブリッシャーではありません。
これらの会社がTGS2018で来場者に見せたかったのは、彼らが制作したゲームそのもの。例えば、日本のパブリッシャーの目にとまれば、日本語版のリリースにつながるでしょう。一般来場者に注目された場合も同様で、アプリの場合はダウンロード数増加につながり、SNSでの話題拡散が狙えます。
しかし、制作したゲームをプレイアブルとせず、映像だけを流していたり、日本語のパンフレットや冊子を配ることに重点を置いていたりするブースもありました。そうした彼らの狙いは、みずからのゲームを売ることではなく、ゲーム制作の技術を知らしめること。「日本語ができるスタッフが在籍している」「日本人好みのイラストが描ける」「世界的ヒット作の制作を請け負っていた実績」「制作期間が短い」「制作費が安価」といった打ち出しが目につきました。つまり、彼らはみずからの腕を、日本のパブリッシャーやデベロッパーにアピールしていたわけです。こうした海外の小さなデベロッパーは、今後、日本のデベロッパーにとって大きなライバルとして立ちはだかる可能性があります。
もちろん、海外のデベロッパーばかりががんばっていたわけではありません。これまで、日本のデベロッパーは、ハードメーカーやパブリッシャーの本社がある大都市(東京や大阪、京都など)の近くに拠点を構えることがほとんどでした。それは、行き来が容易という地理上の利点と、大都市に集まる人や情報に価値を見いだすことができたからといえるでしょう。
しかし、ネットワークインフラの充実や制作に使用するツールやミドルウェアの共通化が進んだ今、大都市にとどまり続ける意味は薄れてきました。データのやりとりやミーティングといったことの大半を、ネットワーク上で完結できるようになったからです。これは、前の項で挙げた海外デベロッパーの日本進出とも大きくかかわることですが、今やクライアントであるパブリッシャーとの物理的な距離はあまり問題になりません。
TGS2018には、そうした傾向をいち早くとらえた「地方行政」がブースを構えています。
沖縄県のブースでは、ネット環境が充実していることやゲーム制作に意欲のある若者が数多いこと、そして税制などの面で優遇されることを強くアピール。商売の基本である「人・物・金」がそろっていることを、来場した(国内の)パブリッシャーやデベロッパーに伝えていました。
一方の仙台市のブースでは、地元のデベロッパーが開催しているゲームのコンテストやゲーム制作のイベントを、行政がバックアップしていることを紹介。熱意のある若い働き手が多く、それを支える体制が整っていることは、進出する企業にとって大きな魅力です。こうした行政の活動に興味を持つ経営者が増えることで、地方でゲームを制作する企業が増えていく可能性は十分考えられるでしょう。
近年のTGSで、業界的に最も注目されているといっても過言ではないのが「インディーゲームコーナー」です。国内外のゲーム制作者みずからがブースを構え、来場者にプレイしてもらってフィードバックをもらえることはそれほど多くありません。また、遊ぶ側にとっても、制作者に直接意見をできる機会は貴重です。さらに、企業にとっては、優秀なタイトルおよび人材の発見の場として機能していることは言うまでもないでしょう。
高価な開発機材も法人格も不要な個人制作のゲームは、腕に覚えがあり、作りたいものがあるクリエイターにとって最良の場となっています。高品質なグラフィックやボリュームが重要視されることもなく、開発の遅れが株価に影響することもないため、ユニークな発想のゲームが多いことも特長です(中には、パブリッシャーのゲームと遜色のないクオリティを実現しているものもあります)。
個人のゲーム制作者が増えた要因として、作品を発表しやすいスマホやSteamといったプラットフォームの普及、扱いやすいツールの登場などが考えられます。また、クリエイターが自身の力を見せたり、評価を受けたりする場として、ゲームが機能していることも理由に挙げられるでしょう。そうして発表したタイトルが評判となり、デベロッパーとして独立を果たすケースも増えてきました。
また、制作した作品は、転職活動時に作る「ポートフォリオ」で強くアピールできる点も見逃せません。技術を磨くために、あるいはただ単に作りたかったものが、結果として自分のストロングポイントになるわけです。一人では難しくても、志を同じくする仲間を見つけて自分の作品を作っておくことは、世界のライバルと競うゲーム制作者にとって欠かせないものになっていく…かもしれません。
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