「モンスターハンター(モンハン)」 プログラマーインタビュー
「モンスターハンター(モンハン)」「バイオハザード」「ストリートファイター」など、アクションゲームで世界をリードするカプコン。どのタイトルも独特の世界観や優れたゲーム性を持ち、多くのファンが各シリーズの最新作を待ちわびています。その高い技術力や表現力はユーザーだけでなく、クリエイターからの注目度も高く、内製のゲームエンジンによる作品群は、常に最新の技術が盛り込まれてきました。
多くの大ヒット作を抱えるカプコンですが、今回は「モンハン」シリーズに深く携わるプログラマーの深沢巧太氏と松尾健太氏に、入社した経緯や携わったタイトル、カプコンならではの開発体制、内製ゲームエンジンの実力など、同社で働く魅力をたっぷり語ってもらいます。
アクションゲームに強く魅力的なコンテンツを展開するカプコン

写真:株式会社カプコン 深沢巧太さん
――初めに、お2人が多くのゲーム会社の中からカプコンを選んだ理由は何でしょうか?
深沢
新卒でカプコンを選んだのは「魅力的なコンテンツが多い」ことと「グローバルに展開しているタイトルが豊富」なこと。そして、「ネットワーク(オンラインゲーム)にも強い」ことに魅力を感じたからです。
会社名を意識して遊ぶゲームを選んでいたわけではありませんが、気付いたらカプコンのタイトルで遊ぶことが多かったです。

写真:株式会社カプコン 松尾健太さん
松尾
私はカプコンには中途入社しました。カプコンの前に5年ほど勤めていた会社は、いわゆるデベロッパーで下請けとしていろいろなゲームを作れる環境で、当時はパブリッシャーで働くより「多くの種類のゲーム制作に携われる」ことに重きを置いていました。
制作現場では、自社タイトルではなくても意見も出せますし、パブリッシャーにもちゃんと聞いてもらえましたが、発注側と制作という立場上、限界はあります。そうした中で、「自分の手で1からゲームを作りたい」という思いが強くなり、パブリッシャーへの転職を考えるようになりました。
勉強のためにいろいろなゲームを遊んでいましたが、その中でも多かったのがアクションゲームで、カプコンが強いジャンルですから、ふれる機会も多く、自然とカプコンという会社に興味を持つようになりました。
――入社後に関わったプロジェクトについて教えてください。
深沢
最初に携わったタイトルは未公開作品で、その後「ロストプラネット」の1作目でUIや敵キャラクターの実装などを担当し、2作目ではAI周りを制作しました。
初めてメインプログラマーとして関わったのは「エクストルーパーズ」です。それから「モンスターハンター:ワールド」を担当し、以降はずっと「モンハン」関連タイトルに関わっています。
松尾
私が転職して最初に関わったのは「モンスターハンター ストーリーズ」です。すでに動いているプロジェクトに途中参加する形でしたので、UI制作のお手伝いから始めて、後半はサウンド周りのヘルプにも入りました。その後は「モンスターハンタークロス」で施設周りのUIを作り、続く「モンスターハンターダブルクロス」では、UIに加えてNPC周りの開発にも携わりました。
直近のプロジェクトでは「モンスターハンターライズ」で、モンスターのメインプログラマーを担当しています。
「モンスターハンターライズ」の開発はプログラマーだけでも40人!
――「モンスターハンターライズ」はどのような体制で制作されたのでしょう?
松尾
私は最初期からのメンバーでしたが、プロジェクトに関わっていたのは、最も多いときで300人くらいです。そのうち、プログラマーは最大で40人ほどでしょうか。中核を担うメンバーは替わっていませんが、、開発するものが大量にありますので、途中から加わるメンバーが多く、試作を含めて、完成には5年程かかりました。
プロジェクトの中は、プレイヤー(主人公)、モンスター(敵)、NPC、UIなどのユニットに分かれています。それぞれのユニットにリーダーが立って、担当する部分を任される形です。もちろん、全体を統括するリーダーもいます。
深沢
「モンハン」のような大きなプロジェクトの場合、全部を1つのチームにまとめて開発を行うと動きが鈍くなってしまいますので、最適化したメンバー構成でユニットを組んで制作するのが効率的です。
1つのユニットの中には担当のプログラマーだけでなく、プランナーやデザイナー、モデル、モーション、エフェクト、サウンドといったアーティストも入り、それぞれが意見を出し合い、切磋琢磨することでより良いゲームに仕上げていきます。
松尾
「モンハン」ですから、やはりモンスターに人数を多く割いていて、関わるプログラマーは10人程。一方、プレイヤーの担当は3人です。ほかのユニットで人数が多かったのはUIで、5~6人で担当していました。
深沢
ゲームに登場するモンスターには、それぞれ担当プログラマーがついています。種類が豊富で、ユニークな動作をするモンスターも多いので、物量と品質を両立するためにモンスターユニットの人数が必然的に多くなりますね。
――モンスターごとに担当プログラマーが違うのですね!
松尾
数十体登場しますが、それぞれに最低1名は担当プログラマーがつきます。自分が担当したモンスターには思い入れというか、愛着がわきますね。
――「ほかのモンスターに負けない動きを作ろう」ということになりませんか?
松尾
ゲームバランスもありますので、ほかより強くするのではなく、「おもしろくする」という意識は働いていると思います。担当したモンスターの動き(アクション)がユーザーに評価されることはモチベーションのひとつです。プランナーの「このモンスターはこう動かしたい」という案に対し、プログラマーも「こうしたほうがいい」とアイディアを出して、よりユニークな動きにしていきます。
実現が難しそうな提案もありますが、「ゲームがおもしろくなりそう」なものは実装したいので努力します。とはいえ、それだけをずっと作っていくわけにもいきませんので、プランナーやメンバーと相談しながら進めていきます。
――「モンスターハンターライズ」の中で、ユーザーに注目してほしいところはありますか?
松尾
「モンスターハンターライズ」で採用した「操竜(そうりゅう)」システムと、新しい遊びとして意見を出し合った「百竜夜行」でしょうか。
私自身は、「百竜夜行」の実装に携わらせてもらっていました。今までの「モンハン」とは一味違う部分ですので、ぜひ見てほしいですね。
ゼロから作った「モンスターハンターライズ」に限らず、「モンハン」は調整が命

――「モンスターハンターライズ」の開発で大変だったことを教えてください。
松尾
「モンスターハンターライズ」はゼロから作り始めたため、企画が固まっていない部分が多かったです。それを練り上げていく楽しさはもちろんありましたが、おもしろさや遊びを自分で開発することは本当に大変でした。
突き詰めすぎると自身の感覚にもずれが生じてしまい、ユーザーがおもしろいと思ってくれるものにならないので。
――「モンハン」シリーズならではの、制作上の特徴はありますか?
深沢
どのタイトルもゲームの内容はプランナーが主体となって企画しますが、「モンスターハンターライズ」ではプログラマー発信の企画やアイディアも採用されています。ユニット内で議論を重ねて、よりおもしろいものを採用していきました。
また、「モンスターハンター:ワールド」ではモンスターがいきいきと存在する必要がありましたから、「調整期間は妥協しない」という方針で進めました。その結果、本来はあまり行わないレベルデザインの変更(地形などの変更)を、モンスターの生態に合わせる形でダイナミックに行っています。
プログラマーとしては、ギリギリまで変更が入ることは避けたいのですが、「モンスターがその世界で生きている」意味を突き詰めて考えると、必要なことと捉えています。
松尾
「モンスターハンターライズ」も調整は大変でした。操竜のほかにも、「翔蟲(かけりむし)」といった要素は、地形への影響も大きかったです。ゲームがおおよそ遊べる状態になるとチェックに入りますが、その期限ギリギリまで調整していましたね。
――ユーザーの遊び方が多様な「モンハン」ならではの苦労でしょうか?
深沢
それはもう、「モンハン」を開発する楽しさです。少しでもおもしろくなるなら、大変だけどやってみよう!という姿勢が開発現場に根付いています。
ゲームエンジン「RE ENGINE」の実力を高めた「モンスターハンターライズ」の開発
――制作には独自のゲームエンジンが使われていますが、その特徴や使い勝手などを教えてください。
松尾
「モンスターハンターライズ」から使用するゲームエンジンを、内製の「RE ENGINE」に変更しました。今までの「モンハン」シリーズで作り方はだいたい固まっていましたが、RE ENGINEに変えることでゲームの作り方も新規開拓となります。
また、これまではプログラムを実行ファイルに移すビルドに時間がかかっていましたが、これがRE ENGINEで高速化されたので、書いたプログラムの確認がすぐにできるようになりました。いわゆる、イテレーションが速くできるようになったことで、効率良くプログラムを進められたと思います。
深沢
RE ENGINEは汎用性の高いゲームエンジンですが、開発初期から「モンスターハンターライズ」に適した機能が揃っているというわけではないので、どうしても使いにくい部分も出てきます。そういうときに、内製ゲームエンジンの強みである「タイトルに応じた機能面の最適化」しやすい特徴が活きました。
――RE ENGINEは、初めてさわる人でも使いやすいツールでしょうか?
松尾
多少の勉強期間は必要になると思いますが、作った者が社内にいますので、すぐに相談ができます。同じ会社で、タイトルとゲームエンジンを同時に開発している点が当社の強みです。社員同士がお互い深くかかわりあえる体制が効率よく開発する上で大きな武器となっています。
例えば、「こういうことをしたい」という要望を出した場合、「どう使えば実現できるか」を教えてもらえますし、解決できそうな方法も提案してくれます。RE ENGINEを一番よく知る制作者が「使い方をいっしょに考えてくれる」のは心強いです。
深沢
RE ENGINEは、カプコンならではのゲームを開発するためのゲームエンジンですが、突飛なゲームエンジンという事ではありません。他社製のゲームエンジンを使ってきたクリエイターであれば、それほど苦労しないと思います。
カプコンだからできる、プレイヤーの声を反映したリアルタイム開発
――「モンスターハンターライズ」の新要素には、プレイヤーの声も反映されていますか?
松尾
遊んでくださったプレイヤーの声をプランナーがチーム内に共有してくれるので、それらについて話し合いを持つことはあります。
深沢
特に、「わかりにくい」という声が多かった部分については優先度を高め、「モンスターハンター:ワールド」では説明動画を入れるなどの工夫をしています。同様に「モンスターハンターライズ」も、よりわかりやすくなるように改善しました。
ただ、「シリーズとして大事にしておきたい」部分は変えていません。改善する場合も、従来の遊びを大事にする場合も、多くの議論を重ねた上で決めています。
松尾
「モンスターハンターライズ」では、プレイヤーができることの幅が広がりましたね。翔蟲という虫を使ったアクションなどの新要素は、とにかくわかりやすくしています。
――プログラマーの提案で、目立って品質を上げたものにはどんなものがありましたか?
松尾
技術開発の部門から数人、「モンスターハンターライズ」専任のスタッフとしてチームに入ってもらい、描画や見た目の部分を改良しています。Nintendo SwitchのCPUやメモリにまつわる機能を有効にすることで、ロードなどの高速化も実現しました。
ユーザーの評判が良かったのは操竜と翔蟲です。どちらも新要素ですから、もちろん賛否はありました。
深沢
「モンスターハンタークロス」や「モンスターハンター:ワールド」でも、プログラマーの提案や実装で良いといわれたものは「モンスターハンターライズ」にも取り込めたと思います。
――「モンスターハンターライズ」の開発で、「カプコンだからできたこと」はどんなことでしょうか?
深沢
アクションゲーム寄りのツールは、どんどん進化していきました。ゲームを作っているときに、「こうしたい!」と思ったことがすぐRE ENGINEに反映されていったのは、ツールを内製しているからこそですね。アクション関連のツールではアニメーションなどの制御も含め、リアルタイムに解決していきました。
松尾
モンスターに関連するツールもたくさん作りました。ゲーム制作に必要なものをシステマチックに作れることも、プログラマーとしてのおもしろさにつながります。
ゲーム制作に必要なツールを検討し、実際に開発するのはプログラマーですが、それをプログラマー自身が使って開発する事もあれば、プランナーやアーティストに提供することもあります。そのツールを使って、プランナーがものすごい作り込みをしてきたときはうれしかったですね。
カプコンのゲーム開発の基本はクオリティファースト!
――カプコンで働くプログラマーは、どのような人が多いですか?
深沢
人物は多様ですが、さまざまなゲームをユーザーとしても楽しんでいる人や、趣味で自宅でもプログラムをしているといった人も多いです。「止めないと永遠にゲームを作り続ける」タイプが多いかもしれません。ゲーム制作では「コストと納期とクオリティのバランス」が求められますが、プロジェクトマネージャーの立場であっても「クオリティが一番大事」「利益追求よりもおもしろさを最優先」と言いますので、ものづくりをしたいクリエイターには良い環境です。

――予算や納期よりもクオリティが重視されるのですね。
深沢
品質を満たしていないものを開発するわけにはいきません。ユニット単位でも「納期に間に合ったから終了」ではなく、マイルストーン(開発目標)の中に「できたものを改善する」ためのスケジュールが組んであります。
確立しているシリーズ作品でも「ブランドとしてふさわしいか」「その先を見据えたものになっているか」といった観点もチェックします。前作までと何も進化していない、挑戦していないようであれば、その試作品の段階でプロジェクトとしては終わりです。
求めるのは技術力と人間力、そして熱さ!! AAAタイトルを開発する仲間を大阪で待つ!
――ところで、今回は大阪本社に勤務する人も募集していますが、お2人は大阪で働いていて良かったことやおすすめのポイントがあったら教えてください。
松尾
ごはんがおいしい!(笑)
あと、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が近いです!!
深沢
大阪にはスパイスカレーのお店がたくさんありまして、そこまでカレー好きではなかったのに、今では週一で食べるようになりました。家賃なども、東京と比較すると安いです。入社前は街が混雑しているイメージもありましたが、思ったほどではなかったですね。
――どんなプログラマーに仲間に加わってほしいですか?
松尾
ゲームを開発する立場ですので「ゲームが好き」な人が良いと思いますが、プログラマーもほかのさまざまな人と関わる仕事ですから「人と話をまとめて仕事を進められる」ことが一番大切です。
また、プログラムの世界は技術がどんどん進んでいきますので、最新の情報にも敏感に反応して取り入れていく姿勢も求めたいです。AAAタイトルを作っていきますから、技術的な能力も当然必要になります。
深沢
私は、「熱意のある」人ですね。今はゲームを開発するだけでなく、開発環境の構築やサーバーといったネットワークを支える技術者など、一口にプログラマーといっても多くの役割があります。それぞれの分野に特化した技術を持ち、熱意や志がある人は、大規模なプロジェクトの中で「いい仕事ができる」と思います。そういう人が加わってくださることで、より良いゲームが作れますので。
――入社後にプログラマーとしてスキルアップできる環境は用意されていますか?
深沢
プロジェクトに配属され業務を通じてスキルアップしていくことになりますが、カプコンにはクリエイティブに特化したトップクリエイターや、RE ENGINE開発の最高レベルの技術者が集結してゲーム開発に力を注ぎ込んでいます。知りたいことがあればプロジェクトであれエンジンであれ、垣根なく聞きに行くことができる環境となっており、各プロジェクトで磨き上げたノウハウや、成功談だけではなく失敗談を含めた勉強会なども開催されます。
「新しく発表された技術について検証をする」「思い付いたアイディアや新しい考え方について議論する」といったことは普段から行われていますし、そうした中で生まれたものが実際のゲームに採用されることもあります。
松尾
技術開発部門の者に、「こういうことを実現する技術はありますか?」という形で相談することも可能です。また、年に1回、技術開発部門が実装、検証した技術についての発表会も実施しています。そういった中から、実際のゲームに採用されたものもあります。
――入社後のキャリアについて教えてください。ずっと現場でプログラミングを続けることも可能ですか?
深沢
現場の第一線でずっと働くこともできます。キャリアの形成は人それぞれですので、アクションのスペシャリストになることも、セクションリーダーやプロジェクト全体のメインプログラマーになることも、プロジェクトマネージャーのような職種を目指すことも可能です。また、何らかの役職を担いながら、現場でプログラムを打つこともできます。
松尾
ゲームを企画から作りたいと思って、プログラマーからプランナーになった例もあります。そこからディレクターやプロデューサーになった者もおります。
社内にはさまざまなグループがありますが、それぞれのリーダーとキャリアや働き方について相談しやすい環境が整っています。
プログラマーだからこのルートというように、キャリアパスを固定してはいませんので、それぞれがやりたいことを実現できる会社であると思います。

――最後に、これから応募する人へのメッセージをお願いします。
松尾
世界に通用するAAAタイトルを、最先端の技術を使って作っているので、世界に向けたゲームを作りたい人といっしょに戦っていきたいです。福利厚生もしっかりしているので、ご家族やお子様がいる人も働きやすい環境が整っています。
深沢
世界に向けたコンテンツを発信していくにあたり、さまざまな分野で技術力のある人を必要としています。ゲームそのものを開発する人はもちろんのこと、サーバーやビルド環境(CI/CD)などにも注力しているので、フロントエンドだけでなく、ユーザーから見えない部分を支えてくださる方の応募もお待ちしています!!

- 株式会社カプコン 深沢巧太
- CS第二開発統括 システム基盤部 副部長。新卒で入社後、数多くのタイトルにプログラマーとして携わり、「モンスターハンター:ワールド」でメインプログラマーを務める。「モンスターハンターライズ」では、プロジェクトマネージャーとしてプロジェクト全体の計画管理を務めた。

- 株式会社カプコン 松尾健太
- CS第二開発統括 開発二部 第一ゲームプログラム室所属。カプコンには中途採用で入社し、「モンスターハンター」シリーズの多くのタイトルに参加。最新作の「モンスターハンターライズ」では、モンスター(敵キャラクター)のメインプログラマーを務めた。