ゲームの制作を容易にするゲームエンジンを、多くの開発会社が取り入れるようになっています。
中でも広く普及しているのが、Unreal Engineと
Unityです。
どちらも、ゲーム制作を支える多くの機能を有していますが、
これを活用してアニメを制作する動きが出てきました。
その理由として、いずれのゲームエンジンも
無料で利用でき、3DCGのリアルタイムレンダリングが可能で、映像表現に必須のライティング機能も充実
したことが挙げられるでしょう。
アニメ制作にゲームエンジンを取り入れた例としては、映画「第9地区」「チャッピー」などで知られるニール・ブロムカンプ監督率いるOats StudiosがUnityで制作した「ADAM」シリーズ。
同じく、Unityで制作され、実写と見まがうばかりの動物やサバンナを描いて世界的な大ヒットとなったフルCG映画「ライオンキング」などが知られています。
どちらもアメリカのスタジオによるものですが、パキスタンの3rd World StudiosがUnreal Engineで制作した長編「Allahyar and the Legend of Markhor」のように、
ゲームエンジンを利用した映像作品は世界的な潮流となりつつあります。
もちろん、日本のアニメ制作の現場でもゲームエンジンは取り入れられつつあります。 例えば、「プリキュア」シリーズの、キャラクターたちがダンスを行うエンディング映像は、Unityで作られていることは広く知られています。
2019年に秋葉原UDXで開催されたアニメ制作者向けのイベント「あにつく 2019」でも、
「ゲームエンジンを活用したアニメ制作とは」と題したカンファレンスが開かれました。
登壇したのは、株式会社クラフターの川島英憲氏、「あした世界が終わるとしても」の櫻木優平監督、株式会社グラフィニカより堀内隆氏・阿尾直樹氏・鶴田剛史氏。
モデレーターを務めたのは、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の小林信行氏です。
「明日世界が終わるとしても」の制作フロー。
初めに、長編アニメ映画「あした世界が終わるとしても」の制作において、 Unityがどのように使われたのかを川島・櫻木両氏が語りました。 プロジェクトの始まりは、「コンピューターに寄り添ったアニメーション制作はないのか?」という疑問だったそうで、 さまざまな制作方法を模索した中からUnityという選択肢が生まれ、制作作業の一部を担うに至りました。 実際の制作フローは以下のようになっています。
耳慣れない「字コンテ」という言葉ですが、これは一般的なアニメ制作で初期に用意される「絵コンテ」を文字ベースで作ったもの。
川島氏によると、クラフター社は映像の演出は得意だが、絵コンテを描けるスタッフが少ないという事情があり、独特な字コンテを基に制作していく手法が採られたそうです。
絵コンテの代わりとなる字コンテ。
続く「テキストムービー」とは、セリフを字幕で表示することで物語の流れを見せるもの。
仮音声があてられているため場面や状況はわかりますが、まだ映像(画像)は用意されていません。
テキストムービーは、3ds Maxのカメラシーケンサを使って制作されます。
完成したテキストムービーに静止画をあてはめたものが「レイアウトムービー」です。
紙芝居を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
用意された静止画は、Premiereを使って順に並べられ、この段階で「それらしい音楽」もつけられます。
このレイアウトムービーを見ながら演出を詰めていきますが、まだ動画になっていないため「リテイクを出しやすい」「シーンの入れ替えが容易」といった特徴があるそうです。
字コンテを元に流れを再現したテキストムービー。
演出がほぼ固まったレイアウトムービーにアニメーションをつけ、Unityに移行したものが「プライマリームービー」です。
最大のポイントは「完成した映像に変換する」だけなので、Unity上で映像を1枚1枚レンダリングしなくても良いこと。
この方法であれば、3DCGの映像制作における課題であるレンダリング時間を大幅に短縮できます。
すべての素材がUnity上でそろったら、あとは完成まで進めればOKとのこと。
このように、従来のアニメとは異なる独自の過程を経て制作された映画「あした世界が終わるとしても」。
川島・櫻木両氏によると、Unityを使った映像制作には、
「3ds Maxとの連携」「Unity上で絵づくりをする際に必要なパーツ(アセット)の準備」に課題が残っているそうです。
これらの問題がクリアされていけば、より多くのスタジオでUnityが導入されるようになるかもしれません。
カンファレンスの後半は、セルルックCGアニメ(※)映画「HELLO WORLD」を制作した株式会社グラフィニカの3氏が、 Unityをどのように活用したかを語りました。こちらは「あした世界が終わるとしても」とは異なり、脚本や絵コンテをもとに原画、 動画と段階を追って作る、従来のアニメ制作と同様のフローで作られたそうです。
※CGでありながらセル画で描かれたかのように見えるアニメーション。
主要ツールは3ds MaxとAfter Effects。ここにUnityが組み入れられた。
おもに使用されたソフトウェアは、3ds MaxとAfter Effects。これにUnityを加えて、ハイクオリティな3DCGと、まるでセル画で描かれたようなアニメーションを実現しました。 3つのソフトウェアの役割は以下のとおりです。
ポイントとなったのは背景動画を作ったUnityで、このプロジェクトのために鶴田氏は独自のシェーダー(描画の方法を決めるプログラム)を開発しています。
なお、同社の制作で使われていなかったUnityの導入には、いくつかの問題も発生しました。
ゲームエンジンとアニメ制作には「概念の違い」があり、プロジェクト管理の方法も(従来の方法とは)異なるため、現場から不満が出たとのこと。
また、UnityをAfter Effectsの代わりに使おうとしたのは誤りだったそうです。
さらに、グラフィニカ社は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンと共同で「劇場公開レベルの3DCGキャラクターを、 リアルタイムでUnityを使って作れるか」の検証を行い、その過程と結果が報告されました。
スクリーンに「HELLO WORLD」の本編画像とUnityのキャプチャー画像を並べることで、来場者が見比べることができました。
パッと見では差がわからない本編(劇場公開版)とUnity版の比較。
最初の工程である「3ds MaxからUnityへのデータの受け渡し」で大きな問題になったのは、 キャラクターを(各ソフトウェア上で)操作するための「リグ」データのサイズです。 ゲームで使うキャラクターの場合は軽くできるものの、アニメで使う場合は重くなってしまい、 3ds Maxで作ったリグをそのままUnityに持っていくことができません(パラメーターの意味が3ds MaxとUnityで異なる部分については、 Unity上で調整が可能であり、大きな問題にはなりません)。
このデータ移行に使われたのは、MeshSyncというツールの「Scene Cache」機能による出力です。 こうして、Unityにデータを渡すことで、次のようなメリットが生まれます。
Unityで作業することのメリットを具体的に解説。
アニメ制作では「リアルタイムで質感の再現」が求められますが、コンポジット用のデータを軽くすることで、 作業の巻き戻しや追加を素早く行うことができます。このとき、完成映像に近いものを使うことで、ストレスを軽減することも大切です。
また、キャラクターをよりリアルにするためには、「高品位の影の再現」も重要です。
この影の作成には、Unityのリアルタイムレイトレーシング機能「DXRレイトレース ハード・シャドウ」(DXR based raytraced hard shadow for Unity)を使います。
こうして作られた影は、3ds Maxで作ったものと遜色ないレベルですが、阿尾氏は「ゲームエンジンの影はクオリティが低い」と指摘。
パッと見ではわかりませんが、ジャギーが出ている部分もあるとのこと。
キャラクターを拡大すると、ジャギーが出ていることがわかります。
従来はAfter Effectsで行っていた撮影処理(効果づけ)にも、Unityが使われました。 アニメで求められるすべての効果を担うのはまだ無理ですが、 今回のプロジェクトではブラーなどの代表的な処理を行えるようにしたそうです。
After Effectsでは、「レイヤーを重ねる」方式で作業をするため、つけた効果がキャラクターにどう反映されるかを確認するには手間がかかります。
一方、Unityでは「ノードベース」で作業できるようにしました。
その結果、カメラワークやライティングなどの効果をリアルタイムで確認しながら作ることが可能になり、
クリエイターが試行錯誤しやすいというメリットが生まれます。ほかにも、以下のような効果が挙げられました。
これまでの制作で、言わば余分にかかっていた時間(クリエイティブではない時間)をクリエイティブに使える意義は大きく、
作品のクオリティにも影響を与えることから、Unityを活用する現場はこれから増えていくことが予想されます。
今はまだ、ゲームクリエイターとアニメーターは異なる職域ですが、ゲームのエフェクトを作る技術がアニメに取り入れられ、
アニメの演出表現がゲームに活かされることで、その境界はなくなっていきます。Unityなど、ゲームエンジンの機能を使いこなすスキルを持つことは、
どちらの業界からも求められる人材になることと同義といえるのではないでしょうか。
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