ゲーム開発最前線 ― 【HTC VIVE開発者向けミートアップ】取材レポート③

【HTC VIVE開発者向けミートアップ】取材レポート③:アニメ美術展VRを活用

VRをアニメーションやミュージックビデオ(MV)に採用した事例を紹介したのは、面白法人カヤック(株式会社カヤック)の天野清之氏。2018年11月に公開した3D仮想プラットフォーム「VR SPARC」のプロデューサーを務める天野氏は、これまでに手掛けた作品を例に、VRが持つ可能性について語りました。

また、原作ファン、アニメファンを問わず話題になった「傷物語VR」の制作については、同じくカヤックのテクニカルディレクターの佐々木晴也氏が紹介。VRで映像を作る際に起こりうる問題、解決手段について、実際の映像をもとに解説しました。

最後に登壇した永田俊輔氏は、2018年に開催された「ピエール・ボナール展」のVRコンテンツ開発秘話を紹介。VRに力を入れる面白法人カヤックで最前線に立つ3人の講演は、ゲームとは少し違う立ち位置ではありますが、VRコンテンツの企画や制作においても参考になる内容が多く、先行者として示唆に満ちたものとなりました。

HTC VIVE開発者向けミートアップ

技術とデザインの組み合わせが新しい世界を生む

クリエイティブディレクターの天野氏が手掛けるのは「Rewrite」というプロジェクトです。これは、テクノロジーとデザインワークを組み合わせ、まったく新しい体験をユーザーに提供するというもの。XR(VRはもちろん、ARやMRなど現実世界と仮想世界を拡張する技術の総称)とAI、音声認識などの最新技術を利用したコンテンツ(ゲームやMV)は、従来とは違うインパクトを生むため、ユーザーはもちろん、関わったアーティストにも喜ばれる作品に仕上がるそうです。

具体例として、まずアニメ「宝石の国」のオープニング映像が紹介されました。これまで、After Effectsで作られていたような演出をプログラムで行うことで、次々と生成される宝石の動きや映り込みなどを表現。原作の世界観を損なうことなく、アニメならでは、およびCGならではの表現で描き出すことに成功したそうです。

また、米津玄師の5thシングル「LOSER/ナンバーナイン」では、赤外線マーカーで頭と手の位置をとらえ、取り込んだ動きを基にMVを制作。米津さんが絵を得意としていることを活かした独創的な映像は、Unityを使って作られたことを明らかにしました。

VRを超える新しい概念であるXRに対し、積極的に取り組んでいく姿勢を示した天野氏。ゲームの映像に「Rewrite」が使われる日も来るかもしれません。 - VIVE JAPAN Developer Meetup 2018

VRを超える新しい概念であるXRに対し、積極的に取り組んでいく姿勢を示した天野氏。ゲームの映像に「Rewrite」が使われる日も来るかもしれません。

今明かされる「傷物語VR」の開発秘話

さらに驚かされたのは、PlayStation VRの無料コンテンツとして公開された「傷物語VR」の開発期間の短さです。映像のプロジェクションマッピングに加え、VRならではの演出も採り入れた意欲作ですが、その開発期間はわずか3ヵ月だったとのこと。発表したのは、やはり面白法人カヤックでエンジニアとして活躍する佐々木氏です。

同作のレンダリング設計にはForwardを採用。Deferredを使わなかったのは「ジャギが出そう」だったことが理由でした。また、ポリゴンが密集することによってちらつきが発生するエイリアシング対策には、凹凸を平面化することで対応。この技術については、Game Developers Conference(GDC) 2015でValve社が発表した「スペキュラエイリアシングを防ぐ」方法を応用したそうです。

また、演出上必要だった映像のマルチ出力=同時再生ですが、CPUに大きな負荷がかかることがネックでした。これは、「ひとつの映像内に複数の動画を配置」する手段で解決。さらに、タイミングが重要となる映像ベースのタイムラインシステムは、なんとGoogle スプレッドシートのタイムスタンプ機能を利用したとのこと。身近で誰もが扱えるものが、VRコンテンツの制作にも活用できることを示しました。

ほかにも、床に影だけを投影してキャラクターの実在感を演出したり、(映像中で)物が飛んでくる方向や位置関係を考慮した音響効果を採り入れたりして、静と動を活かした作品に仕上げたことを語りました。さらに、ユーザーが移動したときに酔ってしまう問題については、「視界の絵の変化を減らす」ことによって、自然と映像を注視するように仕向けることで回避できることを紹介。VRゲームの開発に際し、演出面において役立つ内容が盛りだくさんの講演となりました。

VRを活用した映像をどう作っていくか、検討した手法の利点と弱点をわかりやすく解説。VRで映像を作る際に、役立つワードが詰まった講演となりました。  - VIVE JAPAN Developer Meetup 2018

VRを活用した映像をどう作っていくか、検討した手法の利点と弱点をわかりやすく解説。VRで映像を作る際に、役立つワードが詰まった講演となりました。

展示イベントはテスト環境もVRで用意

続いて登壇した永田氏が担当したのは、「AIT(Art Immersion Technology)」と呼ばれる「描かれなかった風景を体験できる仮想空間」です。これは、2018年に開催されたピエール・ボナール展で公開された新しい技術で、画家が実際に作品を描いた場所を360°動画で撮影。閲覧者が作品世界に没入できるだけでなく、作品を機械に学習させることで、フレーム外の風景を画家が描いたらどうなるのかが体験できるようになります。額に収まった作品(絵)だけでなく、その周囲まで作家が描いた風景に変える、「新しいアート」の楽しみ方の提案といえるでしょう。

永田氏のAITが目指したのは「100%の体験」。つまり、作品が持つ本当のスケール感や(描いた)現場でしか得られない直観です。しかし、それを美術館で実現するためには、時間という大きな障壁がありました。これは、展示イベントにはギリギリまで「本番環境がない」ということです。
ピエール・ボナール展の場合でいうと、会期の直前まで、美術館ではほかの展示が行われていてテストを行えないため、VR作品の見え方をはじめ、人の動きなどについても予測ができないことを示します。

VRの展示のために、VRでテスト環境を作るという発想の転換。現実を拡張するVRならではの考え方が、ピエール・ボナール展におけるVRコンテンツ制作に活用されました。 - VIVE JAPAN Developer Meetup 2018

VRの展示のために、VRでテスト環境を作るという発想の転換。現実を拡張するVRならではの考え方が、ピエール・ボナール展におけるVRコンテンツ制作に活用されました。

そこで永田氏が考えた解決策が、「VRで代替する」ということ。展示のためのシミュレーションアプリを開発し、実際の展示と同じ空間を制作。作品を陳列することによって、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)でテスト環境を構築しました。これにより、美術館内で人の目線がどのように動くのか、VRならではの絵のサイズ感などを、本番と変わらない状態で知ることができたそうです。

また、「絵を部屋(VR空間)の中央に立って鑑賞するとずれが生じること」「AIが機械学習して描いた部分と作家が描いた部分との色彩に違いが出ること」「作品(絵)が現実をデフォルメして描かれていることで(描いた現地の)映像に合わせたときに差異が際立ってしまうこと」といった問題についても、シミュレーションアプリによって発見・解決できたことを報告。
美術展の企画者やVR展示の制作者がイメージを共有することで、「同じゴールイメージ」を持てたことも大きなメリットだったそうです。

VR展示のメリットと課題

永田氏がピエール・ボナール展のVRのシミュレーションアプリを制作し、実際に活用したことで感じたメリットと、今後の課題は以下のようなものでした。

<メリット>

  • 図面ではわからないことが伝わる
  • 誰が見てもわかりやすい
  • 現実の仮想性を持ち込める

<課題>

  • 複雑な形状の空間を再現するには時間がかかる
  • 視覚的なシミュレーションに限定される

本番環境をテストできるシミュレーションアプリは、ショーなどでの展示(出展)だけでなく、VRアミューズメント施設の設計や、テナント出展などを行う際にも役立ちそうです。事前のテストでユーザーの視点や行動、導線などを把握できれば、より良い(満足度の高い)コンテンツの制作にもつながります。
従来のゲーム開発でいえば「テストプレイ」「ロケテスト」に該当する「VRの事前シミュレーション」。VRコンテンツに携わる人は頭に入れておいたほうがいいでしょう。

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