完全オリジナルAAAタイトルを開発中! アンバウンド株式会社プロデューサー 木村雅人氏インタビュー
アンバウンド株式会社のプロデューサー
木村雅人氏が語る
「アンバウンドならではのゲーム作り」とは?
おもしろいゲーム作りにかける思いや開発環境、
求めるクリエイター像について取材しました。
大小2~3つのプロジェクトがバランス良く走る、100~150人規模のスタジオを目指す
――スタジオ設立から1年半、現在のアンバウンドさんについて教えてください。
木村
先ず、ゲーム開発会社は「人」が一番大事なのですが、良い人材を集めるのには時間が必要です。弊社は100~150人くらいの規模を目指していますが、ややハードルを上げて採用をさせていただいていることもあり、現状は50人ほどの組織です。何よりものづくりの方向性が一致するクリエイターを集めたいという思いがあり、急いで拡大するのではなく、ゆっくりしっかり吟味して人材を集めたいと思っています。私たちが作るゲームは「ユーザーのおもしろい」を何よりも大事にしていますが、そこにシンパシーを感じて、ウチの考えや、やり方に染まってくれそうな人に参加してもらいたいですね。
――スタッフは、すべて現在進行中のプロジェクトのスタッフになるのでしょうか?
木村
現状では、基本的に今メインで制作しているAAAタイトルのスタッフとして入社してもらいます。ただ、弊社は大きな作品だけでなく、中、小規模のタイトルも同時に2作品ほど作っていきたいので、それも考慮した上での組織規模を考えています。大小2~3のタイトルをある程度並行して作ることには「制作進行上の色々な工夫ができる」という側面も有りますが、最も大切にしているのはこの会社を立ち上げた目的の一つである「様々な新しい才能たちに多くのチャンスを!」という意味もあります。新しいディレクターだけでなく、プランナー、プログラマー、デザイナーなど、職種を問わずスタッフの皆が様々に挑戦しやすい環境を整えることを目指しています。

―――開発タイトルはいずれもオリジナルになりますか?
木村
-
はい、現状では全て完全オリジナルの新作を考えています。ですが、弊社は「全て企画内容次第」なゲーム開発スタジオなので、その企画内容が面白ければ、ジャンルも、絵柄も、ハードも、それこそオリジナルか否かも、企画に合わせて一番良い道を選択していきます。以前は日本からもクリエイティビティが強く、作品からそのスタジオのにおいがにじみ出ているようなオリジナルタイトルがたくさん発信されていましたが、今はかなり作り辛い状況で減ってしまっているのが現状です。そこでもう一度、日本から「何よりもユーザーを楽しませることを第一に濃いモノ創りをする」スタジオを立ち上げようと、それこそが弊社設立の大きな目的ですから、やはり多くのオリジナルタイトルや新しいゲームを作っていきたいと考えています。
また、弊社はプロジェクトごとに、パブリッシャーさんや様々な会社さんと契約し、ゲーム制作を進めていきますが、そのあたりの部分はマネジメントに任せてもらって、クリエイターはクリエイティブな部分に専念して、ごりごりゲームを作ってもらいたいと思っています。
開発中のハイエンドコンシューマー向けAAAタイトルとは?
――現在進行中のプロジェクトはどのような内容なのでしょうか?
木村
まだ詳しい情報は話せませんが、ハイエンドコンシューマー向けのAAAタイトルです。ただ、海外のAAAタイトルと同じように何百億円もかけて、数百人が5年とか7年とかをかけて作るというやり方を日本で行うのは、正直きびしい・・・。そこで、クオリティはAAA、ボリュームはAA、だからこそ、濃いゲーム体験ができる、その世界にドップリと浸かってもらえるような作品を目指して作っています。
――ゲーム開発に使用しているツールについて教えてください。
木村
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「Unreal Engine 5」を使用し、DCCツール(※1)に決まりは有りません。サウンドなどのツールも同様に、各クリエイターが使い慣れたツールを自由に選択してもらっています。大切なのはクリエイターが実力を一番発揮できるものを使ってもらうことです。グラフィックを担当しているアーティストでいうと液晶タブレットの人もいれば板タブレットの人もいますし、大きなモニターを2枚使う人もいれば小さめな画面で描く人もいます。各人の希望を聞いて、その人にとって一番良い環境を用意するようにしています。
※1:「MAYA」「Blender」「Zbrush」「3ds Max」「Houdini」など、3DCGの制作に使われるツール。
――「Ghostwire: Tokyo(ゴーストワイヤー トウキョウ)」(※2)では、ビジュアルを先行させて、
そこにゲーム性を当てはめるという特殊な作り方をしたとおききしましたが、今回はいかがでしょうか?
木村
-
確かに「Ghostwire: Tokyo」は、あの雰囲気と世界観を楽しんでもらうことが一番にあったのでビジュアル、背景や街の制作が先行し、そこに「遊び」を当てはめていきました。ゲーム作りの通常の順番は楽しませたいこと「遊び」が先にあって、そのためにステージやアクションをデザインして、行ったり来たり試行錯誤しながら、全体が統合的にハマっていく感じなのですが、この作品は逆で、先にかっこいい場所と雰囲気を作って、後から「ここでどう遊んでもらうのか?」をハメていったのでかなり苦労しました。
そんな苦労も踏まえて、今作は通常の順番で統合的に詰めていっています。ユーザーに「何を楽しんでもらいたいのか」というプランニングからですね。ただ、ゲームの作り方に解りやすい正解や公式はありません。最終的におもしろくなれば、ゲーム先行でもビジュアル先行でも、どちらでもOKなのではないかと思っています(苦笑)。
※2:2022年にPlayStation 5とPC、2023年にXbox Series X/Sで発売されたアクションアドベンチャーゲーム。Tango Gameworksが開発し、木村氏はプロデューサーを務めた。
ゲーム内容に合った魅力的なものを作る「上手さ」や「器用さ」が必要
――現在のプロジェクトはゲーム性を優先しつつもリアル志向なビジュアルなのですね。
木村
そうですね。ですから、弊社に応募していただく場合、グラフィック系クリエイターのポートフォリオには、必須条件では有りませんが少なくとも1点はリアル系の作品を入れていただきたいです。例えば、背景担当としてプロジェクトに参加しているクリエイターのポートフォリオは、トゥーン系のかわいらしいデフォルメ作品ばかりだったケースもありました。ですが、デフォルメされた世界観でも非常に魅力的な背景であったことに加え、学生時代にリアルなCGやドローイングの経験があった点が採用につながりました。
――現在のプロジェクトはリアル系ではあるものの、異なるスタイルの絵を描けることも大切ということでしょうか?
木村
先程も申し上げたように、いずれは中小規模の作品も作っていきます。弊社のゲームづくりにおいては「全てプランニングありき」ですから、ビジュアルについてもゲームの内容に合ったもの(絵柄・世界観)を選ぶことになります。ポップな世界観のゲームであればトゥーン系に寄せることを考えますし、ユーザーを怖がらせるようなゲームであればリアルな方向を検討します。ただ、リアル方向でもポップ方向でもその世界観を特別に高いクオリティーで表現できる人は、なんだかんだ言いつつ、どちらにも応用ができている気がしています。このことは背景でもキャラクターでもアニメーションでも変わりません。
プログラマーに求めるのは、良く言うと「ライブ感溢れる」制作現場を楽しめること
――プログラマーにはどんなことを求めますか?
木村
弊社はオリジナルの新規タイトルなど、大小の新しいものをどんどん作っていきたいと考えています。新しいものを作るということは、試行錯誤を重ね、実装と変更、工夫、時には削除を繰り返すしかありません。作って壊して、ああでもないこうでもないと繰り返しながら作っていくため、予定通りには行きませんし、内容も様々にガンガンに変わっていきます。良く言えばライブ感のあるものづくり、柔軟性のある開発スタイルでしょうか。いっしょに働くプログラマーの皆さんにはそれにとことん付き合ってもらわなければなりませんから、そうした作り方を楽しめる人に参加してもらいたいですね。
――アンバウンドならではのゲームづくりですね。
木村
企画書ではおもしろそうだった要素を、実際に入れたらうまくハマらなかったり、反対にこれはちょっと・・・というものが改良次第でおもしろくなったりもします。現在開発中のタイトルは、初期段階ではディレクターとプログラマーだけで、デザイナーがほぼ不在でした。ただ、ある程度企画が進むと机上の議論だけでは詰めていくのに限界があり、Unrealのストアで色々なものを買ってゲームを組んでみました。形にして初めて、色々な問題点が明らかになったりもしました。2024年になってモデラー、コンセプトアーティスト、アニメーターなどがドンドン加わって来たので、現状はストアの素材から本番のデータに切り替えていきつつ、新しい要素を足していって、ある一定のエリアを本番に近いクオリティーで作っているところです。
他社とはちょっと違ったクリエイターの立ち位置や目線と働き方
――入社した人は必ずAAAタイトルに参加することになりますか?
木村
現在はメインの1ラインしか走っていませんので、先ずはAAAタイトルに加わってもらいます。ここ1~2年で中小規模の作品も立ち上げたいと考えているので、そちらが動き出したらスタッフそれぞれの希望を聞きたいと思います。ただ、向き不向きや相性もありますから、そこは色々と調整次第というところですね。
――職域を超えることや立場が逆転することもありえるのでしょうか?
木村
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ウチはデザイナーはビジュアルだけ、プランナーはプランニングだけ、という会社ではありません。弊社の特徴のひとつとして、例えば、プログラマーがデザインに口を出しても構いませんし、デザイナーがサウンドに注文を出したり、企画に加わったりすることもあります。セクションごとの垣根は存在せず「ゲームをおもしろくする、良くする」ためであれば、基本的には誰が何をやってもいいので、立場は関係なく、みんなが意見を出し合う組織といえます。
反対に、問題点に気づいていながら声を上げないことは、「悪」であるとさえ考えています。私たちはユーザーに「おもしろさを届ける」ためにゲームを作っているので、そのためであれば遠慮は一切いりません。
――ほかにもアンバウンドならではの特徴的な働き方はありますか?
木村
「◯◯という職種、役職だから××は担当しない」というようなこともありません。その時々で必要な作業を適任者が担当し、柔軟に対応しながらゲーム制作を進めています。そのため、決められた設計図通りに作業を進めるのが好きなような方には、弊社は適さないかもしれません。「あれをやりたい」「これもやりたい」「こんなおもしろいものがあります!」「こういうのはどうですか?」と、ガンガンに食いついてくる人にはチャンスがたくさんある会社だと思います。新卒や中途採用にかかわらず、職種や年齢、経歴も問いません。
――ほかに求める条件はありますか?
木村
ゲームクリエイターとして、まわりと日本語で共通の認識をもって意思疎通がちゃんとできることです。映画・アニメ・漫画等々の特定の場面を例に挙げた指示などがかなり多いので、それがどのような効果を求めているのかを的確に聞き取り、理解する必要があります。あとは「ゲームが好きで、ゲームを作ることに情熱を持っている人」であってほしいと思います。弊社でゲーム開発に携わる殆どのスタッフの名刺の肩書は「ゲームクリエイター」としています。もちろん皆、各セクションのプロフェッショナルであり専門家なのですが、その前に「ユーザーを楽しませるゲームを作ることが私たちの仕事である」ということを意味しています。
――木村さんがゲームクリエイターに求めることはありますか?
木村
ゲームづくりの経験は、時間の長さではなく「ユーザーにどれだけ届けることができたか」だと思います。ユーザーに遊んでもらって、好意的なものも批判的なものも含め、さまざまな反響があってそれをシッカリ受け止めた、という経験が大事です。新卒でも、何かを作ることができたら、友達でも先生でも、何かしらのイベントでの発表の場でもいいので、とにかく自分が作ったものを誰かに触ってもらって反応を得ることがとても大切だと思います。

クリエイターのスキルアップとキャリアプランは自分次第
――入社後、クリエイターがスキルアップをするためのしくみは用意されていますか?
木村
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ソフトウェアに関する知識を深めたい場合などは、外部のセミナーへの参加やそのソフトウェアの会社の人に来てもらって説明を受けるという機会を設けています。また、さまざまな開発スタジオとのつながりがあるので、例えば、海外のある作品について、リモートミーティングで制作者に色々なお話を聞かせていただくこともあります。ほかにも、「GDC(ゲームディベロッパーズカンファレンス)」(※3)や「CEDEC」、「SIGGRAPH(シーグラフ)」(※4)、様々な技術系、アート系のイベントなどでゲーム開発に役立ちそうな講演があれば、積極的に参加していきます。
※3:ゲーム業界向けの大規模勉強会。
※4:アメリカのコンピューター学会内でCGを扱う分科会および、同会が主催する国際会議&展示会の通称。
――クリエイターはキャリアプランをどう描いていけば良いでしょうか?
木村
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それぞれが得意な部分や、やりたいことを伸ばしていくのが良いと考えています。もちろん入社時には、先ずはそれぞれの職種や業務を担当してもらいますが、その先はガンガン挑戦してほしいです。「こういうことをやってみたい」と決心したら、いつでも相談してください。今いるメンバーの中にも、カットシーンの担当のプログラマーとして入社後、「もう少しデザイン寄りのテクニカルアーティストを目指したい」という希望を持って挑戦しているプログラマーや、UIデザイナーとして大活躍しているのに、企画を提案してディレクターを目指すデザイナーもいます。反対に、何らかのスペシャリストとして、その道一本を極めたい!というスタッフも多く、皆それぞれに挑戦し、成長できる環境だと思います。
――働く環境や待遇などについて教えてください。
木村
弊社ではフル出社勤務を基本としています。オリジナルタイトルを作るのは未知の挑戦や試行錯誤、暗中模索が多いため、正直なところリモートでの開発では難しい部分が多々あります。出社によって雑談が生まれ、褒められたり、注意されたり、しょうもないことを言い合ったり、そういう会話に多くの情報やアイディアが含まれていて、そこから何かが生まれることがとても多いと感じています。そのようなワイワイガヤガヤしたゲーム開発環境を大切にしているため、基本的に全員出社をお願いしていますが、機材を用意できれば月に最大4日間は自由にリモートワークが可能な制度も設けています。
――最後にアンバウンドに応募するクリエイターに向けてメッセージをお願いします。
木村
我々アンバウンド株式会社は、何よりも「ユーザーを楽しませる」ことを大切に、日本から全世界に向けてクリエイティビティーがパンパンに詰まったゲームをガンガン作っていきたいと思っています。これはなかなかに挑戦的で、時には結構しんどいことでもありますが、決して無謀なことでは無いと思っています。ユーザーの皆さんに「あのスタジオが作るゲームは尖っていてなんだか気になる・・・」とずっと思ってもらえるようなスタジオになりたいと考えています。こうした考えや思いを「おもしろそうだ」と本気で感じてくれるクリエイターのご応募をお待ちしております。

- アンバウンド株式会社 木村雅人
- エフェクトデザイナーとして入社したカプコンで「デビル メイ クライ」「バイオハザード」「ビューティフル ジョー」などに携わる。その後、クローバースタジオでは「大神」「GOD HAND」を制作。イグニション・エンターテイメント・リミテッドにて「El Shaddai(エルシャダイ)」、Tango Gameworksでは「PsychoBreak(サイコブレイク)」シリーズ、「Ghostwire: Tokyo(ゴーストワイヤー トウキョウ)」「Hi-Fi RUSH(ハイファイ ラッシュ)」などのタイトルでプロデュースを担当。アンバウンド株式会社が現在開発中の完全オリジナルの新作AAAタイトルでもプロデューサーを務める。