ゲーム開発最前線 ― 【TGS2019】取材レポート:世界の識者が語った「次世代ゲームの形」

【TGS2019】取材レポート:世界の識者が語った「次世代ゲームの形」

26万2,076人を動員 し、大成功に終わった「東京ゲームショウ(TGS)2019」では、さまざまなゲームを体験できたり、最新の映像を見られたり、クリエイターや声優が登壇するトーク・ライブなど、出展社が趣向をこらしたイベントを楽しむことができました。
近年は、ビジネスマッチングの場としても機能しており、国内外のパブリッシャーやデベロッパーが交流し、新たなタイトルの開発や業務提携といった動きも盛んに行われました(主催者発表によると2018年の2倍となる1,496件の商談 が持たれた)。

【TGS2019】取材レポート:世界の識者が語った「次世代ゲームの形」

世界的に盛り上がりを見せる「eスポーツ」の大会や、著名なクリエイター・経営者による講演などのステージイベントも人気です。しかし、初日に行われた「グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット」に注目している来場者は、あまり多くありませんでした。
確かに、世界のゲームメディアに携わる記者や編集者、アナリストが「2020年のゲーム業界を展望する」というテーマは、一般のゲームファンに響くものではないかもしれません。しかし、ゲームの開発や販売に関わる方にとっては、業界全体がどの方向を向いているかを知る貴重な機会。日頃ふれている日本のメディアとは違う視点で捉えた「世界のゲーム業界の潮流」を垣間見ることができました。

<グローバル・ゲーム・ビジネス・サミットの登壇者>

【TGS2019】取材レポート:IGN Executive EditorのMiranda SANCHEZ氏。

IGN Executive EditorのMiranda SANCHEZ氏。

【TGS2019】取材レポート:Gamespot Managing EditorのPeter Brown氏。

Gamespot Managing EditorのPeter Brown氏。

【TGS2019】取材レポート:IGN Germanyの編集長であるSebastian OSSOWSKI氏。

IGN Germanyの編集長であるSebastian OSSOWSKI氏。

【TGS2019】取材レポート:Pocket Gamer Big IndieでPitch Managerを務めるSophia Aubrey Drake氏。

Pocket Gamer Big IndieでPitch Managerを務めるSophia Aubrey Drake氏。

【TGS2019】取材レポート:世界の識者が語った「次世代ゲームの形」

立命館大学教授の中村彰憲氏。

【TGS2019】取材レポート:立命館大学教授の中村彰憲氏。

ThisisGame CEOのイム・サンフン氏。

【TGS2019】取材レポート:IGN Japan編集長のダニエル・ロブソン氏。

IGN Japan編集長のダニエル・ロブソン氏。

【TGS2019】取材レポート:SMBC日興証券でシニアアナリストを務める前田栄二氏。

SMBC日興証券でシニアアナリストを務める前田栄二氏。

最新技術が新世代のゲーム機に採用される

初めに、8KやAIといった新しい技術がゲームにもたらす影響と、各国のゲームビジネスの現状について語られました。

Sebastian OSSOWSKI:アメリカではマイクロソフトが大きな市場を持っていますが、ヨーロッパではソニーや任天堂も強く競争は激しいです。(勝ち抜くには)従来の売りきり型やサブスクリプション型とは異なるビジネスモデルを探す必要があるでしょう。なお、多くのプレーヤーはフルHD(の画質)で満足しており、4Kや8Kはいらないと考えていますが、AIによるゲームの進化には興味がありそう。(AIは)見た目ではなく「ゲームプレーを変える」もの。グラフィックで勝負をしていない任天堂(のゲーム制作の方針)がヒントになるかもしれません。

Peter Brown:低解像度のゲームも、AIを利用することで高解像度化できる可能性がある。

Miranda SANCHEZ:グラフィックはユーザーにわかりやすく違いを出せるポイントですが、ハードメーカーはそれ以外の部分で差別化を図っていきます。次の世代のゲーム機には「ボイスコマンド」が持ち込まれ、コントローラーやリモコンではなく「声で操作を行う」ようになるでしょう。

Sebastian OSSOWSKI:ボイスコマンドは確かに便利で、ゲームの間口を広げ、わかりやすく遊べるようになるものですが、ローカライゼーションが大きな課題です。特に方言(なまり)を理解できるようになるのかが問題で、これをクリアできないと(同一タイトルを)同時期に世界展開することはできないでしょう。 ちなみに、ゲームの操作という視点で考えると、マイクロソフトがXbox 360とXbox oneで展開していた、ジェスチャーや音声入力で操作を行う「Kinect」は良い物でした(ただし、売り方は悪かった)。また、同じマイクロソフトの「Xbox Adaptive Controller」は操作が容易で、アクセスビリティの向上に寄与しています。

ダニエル・ロブソン:「Xbox Adaptive Controller」は、(障害のある方だけでなく)今のコントローラーを使いこなせないプレーヤーにも役立つ物。こうしたデバイスによって、誰もが同じゲーム体験をできるようになりました。広いターゲットに向けた製品という意味において、任天堂の「Switch」もわかりやすくできています。ほかのコンソール機やPCも真似をするべきではないでしょうか。

Miranda SANCHEZ:あらゆるプレーヤーにとってアクセシビリティは大切です。AIは、それも担うことになるでしょう。具体的に言うと「AIがプレーヤーを助ける」ようになります。

世界のゲームシーンにおけるeスポーツの立ち位置

続いての話題は、東京ゲームショウ2019でも大きな大会が開催されたeスポーツについてです。テレビなどの報道ではわからない各国の状況が見えてきました。

中村彰憲:韓国と中国ではすっかり浸透しています。今は、モバイル(スマホ)のタイトルのほうが多くなっています。

イム・サンフン:アメリカや中国はプレーヤーと観客が多い(市場が大きい)から広まったといえます。しかし、大きなお金を出す企業スポンサーがつかないとダメですね。ほかのスポーツと比べ、選手たちの活動期間はとても短くて、19歳から22歳がピークになっています。かつての有名プレーヤーも、今はうまくいっていない例が多いようです。

Sophia Aubrey Drake:ヨーロッパでは「FORTNITE」が成功しましたが、eスポーツ自体はまだ主流にはなっていません。観客も同じゲームを追い続けることはなく、移り気です。「FIFA」シリーズも人気がありますが、毎年新しいバージョンが出るため、プレーヤーがついていかない傾向が見えています。

Miranda SANCHEZ:その点、アメリカ(北米)ではプレーヤーも観客も、(eスポーツに)しっかりついています。特に観客はタイトルにつくのではなく、「お気に入りのチームを追いかける」傾向です。

Sebastian OSSOWSKI:ヨーロッパの場合、eスポーツが認められるまで5年を要しました。また、政治的な問題もあります。そもそも「eスポーツは本当のスポーツなのか?」という議論を今も繰り返しているくらいで、それによって進化(普及)が阻まれている面もあるでしょう。

中村彰憲:中国では競技性が高く、健全性のあるタイトルに人気があります。もちろん、人口が多いからプレーヤーも多く、それによって成り立っている部分もあるでしょう。アリババが「eスポーツ用のスタジアムを建設」して、興行を成り立たせようとしているくらいですから、(eスポーツの)市場があることは確かです。

前田栄二:日本は賞金の上限が定められていたり、ライセンスがないと大きな大会に出られなかったりという問題があります。腕の立つプレーヤーは海外に出るしかない。プロになるためのエントリーバリアをクリアしなければならないでしょう。

ゲームの人気を左右するストリーミング

3つ目の話題は、日本でも「ゲームを見る手段」として一般化した「ストリーミング」です。とはいえ、事情はさまざまなようで…プロモーションの場として機能するかどうかは、国によって大きく異なることがわかりました。

イム・サンフン:3Gのときは音楽、LTEでは映像の配信が普及しました。きたる5Gでは、ストリーミングゲームが人気になると考えています。まだ、見えていない部分もありますが、ゲームを超えた多くのコラボレーションも生まれそうです。ただ、プレーヤーは「名前のあるタイトルを選びがち」なので、大企業のタイトルがより強くなり、小さな企業やインディーズにとっては不利に働くかもしれません。

ダニエル・ロブソン:日本は(ストリーミングゲームに)良い環境が整っていて、技術的にも進んでいます。しかし、ハイレゾのものがクラッシュしやすいといった課題もある。

イム・サンフン:韓国も通信環境は整っています。通信速度が速いからダウンロードも簡単です。つまり、わざわざストリーミングゲームにする意味が(今のところ)ありません。

Miranda SANCHEZ:アメリカはストリーミングゲームをするためのインフラが整っていません。ホテルのように通信環境がそろった場所であれば良いかもしれませんが…。Googleの「Stadia」は、少ない投資でゲームを楽しめるので魅力的ですが、やはりインフラがなければいけません。映像のNetflixが成功したように、「1回ダウンロードしたらオフラインで遊べる」のであれば、フィットするかもしれません。マイクロソフトが考えている仕組みですね。
これまでの(ダウンロードするタイプの)ゲームは、サブスクリプションで「支払い済み」だからプレーしたという側面もあります。ストリーミングゲームの場合、支払いのタイミングも変わりますが、そのことがプレーヤーの心理にどう作用するか…。でも、過去のゲームが(ストリーミングで)遊べる「ライブラリ」には可能性があると思います。

Sophia Aubrey Drake:イギリスは月額20~40ポンド程度で十分な通信環境が得られるので、ストリーミングゲームに向いています。しかし、地域差が大きく、インフラが整っていない地域もあるのが現実です。

Sebastian OSSOWSKI:ドイツも同様です。4GどころかLTEすらない(通信の)ブランクスポットがあり、いまだにアナログ回線の電話を使っているような場所もあります。大都市のベルリンやミュンヘンであっても、「Stadia」が求める通信環境がそろわない場合もあるくらいです。

Sophia Aubrey Drake:議論は少し変わりますが、ゲームをアートや文化として捉えるのであれば、「継承すること」を考えなければなりません。ストリーミングだけで完結するゲームの場合、その作品をどのように(後生に)残すのか。また、ゲームメーカーがちゃんと儲けることができるかどうかも問題になるでしょう。

前田栄二:サブスクリプションの場合、常に自社のタイトルで遊んでもらえるわけではありません。しかし、売上に応じて一定割合の報酬を受け取るレベニューシェア(からの収入)だけでは商売にならない。タイトルにさらにプレミアム要素を加えて売る、ストリーミングゲームならではのモデルが必要になるでしょう。

Miranda SANCHEZ:アメリカでは(無料で楽しめるものが多く存在することも影響しますが)、一度代金を支払ったゲームに、再度お金を支払うプレーヤーはあまりいません。ただ「FORTNITE」のプレミアムはうまくいっているようなので、そこに(新しいビジネスモデルの)ヒントがあるともいえます。

先端技術、ユーザーの動向、地域差を知ることが肝要

8Kや5G、AIといった新しい技術を取り入れているという開発の現場は、全体から見るとごく少数であるといえるでしょう。しかし、次世代のゲームには確実に影響を与えるものであり、そうした技術情報を今から収集し、身につけておくことは、クリエイターとしての今後のキャリアにも影響を及ぼしそうです。

また、日本や欧州では市民権を得たとは言いきれないeスポーツですが、北米やアジアでは大きなマーケットに成長しており、「マルチプレー」や「(他者にゲームプレーを)見せる」要素を取り入れることは、それらの地域でのヒットに結び付く可能性があります。eスポーツとして成立させられるかどうかは、今後、ゲームの企画を立てる上で考慮すべき要素になるかもしれません。

今までゲームはハードとソフトをそろえて楽しむものでしたが、ゲームをプレーしている動画を見るという楽しみ方(ストリーミング)は、世界中のユーザーに広まっています。ゲームの楽しみ方が変わる中、マイクロソフトやGoogleは、動画の視聴者がそのままゲームの世界に参加したり、購入できたりする仕組みを発表済みです。日本のゲームメーカー(ハードメーカー)も、こうした動きを無視するとは考えにくいので、ユーザーの「新しいゲームの楽しみ方(消費行動)」を見据えたゲーム開発の作法も求められるようになりそうです。そしてクリエイターとしては、目の前の開発・運営タイトルに注力しながらも、一歩先の技術や世界市場の動きをしっかり押さえることで、今後のキャリアに活かすことができるようになるでしょう。

【TGS2019】取材レポート:世界の識者が語った「次世代ゲームの形」

モデレーターを務めた日経BP社シリコンバレー支局の根津禎記者と登壇者。世界のゲーム市場について語られた未来像は、日本のゲーム業界の行方を占う内容でもありました。

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